大内学而堂 Ouchi-Gakuzidou

森の本筥:本の感想、詳細を載せています。

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道半ば
陳蕣臣
この本は、台湾で生まれ神戸で育った陳さんが小説家になるまでを回想したものです。
運動が不得意な陳さんは読書に熱中し物語を空想する少年でした。
貿易を家業とする家庭環境のもとで、日本、台湾と中国を複合的に考えることを自然に身につけて行ったようです。
しかし時代は日中戦争から太平洋戦争に進んでいった頃です。ご自身はインドやペルシャについて 専門的に学ぼうと思いますが、上手くことが運びませんでした。
終戦後、一時台湾に帰り、学校の先生をします。国民党と共産党の内戦。台湾に来た国民党政権下の弾圧。
危険を感じ、陳さんは日本に戻ることを決意し、神戸に戻り家業を手伝うかたわら、小説家になろうと考えます。
「過塩水」という台湾人の処世術があるそうです。色んなことを知っていて油断のならない人間に思われてはならない。注意して生きなければならないと言うことだそうです。
陳さんは少数派のなかの少数派として生きていかなければならない。そう覚悟して生きてきたと陳さんは語ります。
良寛
水上勉
良寛は、読書好きで、人見知りをする、社交的ではない少年だったようです。長じても現実的な対応が下手で、名主見習いの仕事も落第生だったようです。
越後に来た国仙という名僧と偶々出会い、岡山の圓通寺に随行し修行するようになります。
しかし、良寛は仏教の学問を深め学僧として位階を高めるでもなく、地方のお寺で葬式法事に熱心な寺院経営者になることも否定し、なんとなくぼんやりとした「昼行燈」といわれる坊さんだったようです。
師国仙の印可を受けた良寛は、あちこち放浪した後、越後に帰郷し、町々を行乞し、小さな庵に住み、詩歌に親しみ、近隣の人に助けられ、また良寛も親愛の情で接し、求道・悟道の一本道を歩みました。
師国仙から与えられた印可は次のようなものでした。
良や愚の如く、道うたた寛し。騰々任運誰か看ることを得む、為に附す山形爛藤の杖、到る処壁間午睡の閑。
悪霊
ドストエフスキー
19世紀の中頃、ロシアの地方都市を舞台にした小説です。
登場人物はろくでもない人ばかり。
口舌の徒。ずるく立ち回る人。目立ちたがり。頑固な人。女たらし。酒に飲まれた人。優柔不断な人。ニヒリスト等々。
神との約束を守ろうとしない人々が破滅へと向かい、小説は急展開します。
戦艦大和の最期
吉田満
東京帝国大学の学生であった吉田さんが学徒出陣で召集され、戦艦大和に乗船します。沖縄特攻作戦に参加し、大和と運命をともにした戦友たちを描いたものです。
呉を出港しB29や米潜水艦の監視の中、沖縄を目指す大和。
折しも4月。桜咲く日本の春。日本に愛惜別離をする乗組員。
やがて米軍機動部隊に攻撃を受けます。波状攻撃を繰り返す戦闘機、攻撃機。
魚雷、爆弾が大和に命中します。次々と倒れる戦友たち。その人生、大和での交際を思い浮かべ、吉田さんの筆致は熱く、簡潔に。それが読むものの心に訴えます。
大和は撃沈されますが、吉田さんは救助され、佐世保に帰還します。
今回も手拭いを傍らに置いての読書でした。
怪しい来客簿
色川武大
中学校になじめず、学校をサボり、浅草を徘徊していた戦中戦後の頃、たまたま出会った人々を、中年になった筆者が思い起こす、というより亡霊のように表われてくる。
中学の教師・同級生たち、路傍で会ったひとたち。浅草の芸人。出版業界に棲息する人たちなどなど。
 沈んでいった人たちが、筆者の前に表れる。
新約聖書物語
犬養道子
この本は、イエスと弟子たちとの交流を通じて、新しい宗教を、どのように教え伝えていったのか、を豊富なキリスト教の知識、中東の歴史・地誌を駆使し、日本人の私たちにも理解できるようにと、書かれたものだと思います。
ローマ帝国に間接統治されたユダヤ王国に、イエスは太祖アブラハムの末裔ヨゼフの妻マリアから生まれました。
成長して、信仰生活に入ったイエスは、奇跡を起こす人、病を治す人として、人々の前に姿を現しました。そのようなイエスに、人々は期待します。預言者として。イスラエルを再興する新しい王として。またイエスと共に居れば栄達ができるのではないか。と世俗的なことを人々は期待します。
そのような人々に、分かりやすく、悠長に神の教えを説きます。
またイエスに反対する人々も存在します。王党派、既成の宗教家たち、その周辺の既得権益層の人びと。彼らにはイエスは神を冒涜する者と映ります。
迫害されながらもイスラエル各地で伝道活動をするイエス。やがて逮捕される運命を知っているイエス。弟子たちの習熟度、その遅さ、拙さにもめげずに信仰生活が深く、静かになってゆくイエス。
ユダの裏切りによって、処刑され、三日後に復活し、昇天するイエスによって、神と共にあることを知る弟子たち。
やがて弟子たちは、この新しい宗教を携えて、イスラエル各地、北アフリカ、小アジア、ギリシャ、ローマへと伝道活動へ入ります。
キリスト教の知識に乏しい私ですが、興趣尽きなく、読了いたしました。
アンダーグラウンド
村上春樹
この本は、サリン事件で被害に合われた方々を村上春樹さんが取材し、その証言をまとめたものです。
村上さんが予断、先入観を持たず、またある方向に誘導するということがないためか、皆さん率直にご自身のことを語っておられます。
どのように生きて来たのか、どんな仕事をしているのか、家族のこと、住んでいる地域のことを聞いていると、家族を養い、家を支えいている、真面目な勤労者のイメージが浮かんできます。
そのような方々が、混雑する朝の地下鉄の中で前代未聞の事件に遭遇したわけです。
被害者同士が助け合い、救助を待ち、自ら病院に行き、治療を受け、サリン特有の症状に苦しみ、少しずつ回復し、不安を覚えながら生活をしている。
オウムへの怒りは、心の奥深く沈潜しているように見え、被害者の方々が戦場からの帰還者のように思えました。
街道を行く
司馬遼太郎
このシリーズを通して、司馬遼太郎さんは、長い期間にわたって日本各地を訪れ、
日本の歴史と日本人について、豊富な知識を平易な文章で語りかけてくれました。
その魅力は、歴史的な事柄を達意な文章表現で読者に感得させるというところでしょうか。
訪れた土地で、人々と交流するときも人見知りすることなく、交際しているように感じられました。
その一つ、神田神保町界隈の古本屋のご主人たちとの交際は、存じ上げている方々でしたので、心を熱くして読みました。
孔子
井上靖
孔子の側に仕えた篶量という老人を中心に、孔子研究者が生前の孔子の足跡を尋ね、
人間像を探求する、という形で小説が進みます。
2500年前の中国。戦乱の世に生きた孔子は、人間はどう生きなければならないのか、
政治の要諦は何なのか、を考え、生きた人です。
小国・弱国は強国に併呑され、また強国・大国同士の興亡の争いも続いてました
国家がなくなるとは、棄民になるとは、どうゆうことか?
篶量という老人の人生を通して語られていきます。
そしてその中心に孔子がいます
座右に置き、再読したい本です
石光真光の手記
城下の人 曠野の花 望郷の歌 誰のために
明治初年、熊本に武士の子として生まれ、神風連の乱、西南戦争を間近に見て、
やがて軍人となりました。
石光は、日清、日露戦争、ロシア革命のときのシベリア出兵、
激動の時代に諜報活動に従事します。
身分を隠しての諜報活動。写真屋や洗濯屋を経営したり、
危機一髪を馬賊に助けられたり、女郎と行動を共にしたり、八面六臂の活躍をします。
19世紀末から20世紀初頭の極東アジアの国際政治の現場を目撃してきた人の報告書です。
軍人として栄達はなく、生涯を終えた人ですが、忘れてはならない本です。
断腸亭日乗
永井荷風
寝る前に適当に本を選び、適当に頁を開いて読みます。
数頁を読むくらいで寝てしまうのだけれども案外面白い。
戦争に至るまでの東京の暮らしの移り変わり、軍国主義をどうみていたのか?
また浅草、玉ノ井という風俗街の探訪。玄人筋の女たちとの交際など興味がつきない日記文学の傑作です。
今回読んでみて、荷風先生は何を食べていたのか、気になりました。
神楽坂、銀座の料理屋、レストランなど決して安くはないうまい店に出入りしてたのでしょうが、メニューの記述が少ないです。
サバみそ定食とか野菜炒め定食とかじゃないのでしょうが。
親の遺産と印税、株式の配当などを得て贅沢な生活ができる独り身の高等遊民と言ってしまえばそれまでだけれども、勝手気ままなところが魅力的なのです。
偉いぞ!立ち食いそば
東海林さだお
富士そばのメニューを全部食べてみようという試みです。
私も立ち食いそばは好きですが、こういうことをしようと思いつきませんでした。
だいたいその時の好みで、「かき揚げそば」とか「春菊そば」とかを食べることが多く、その時の好み次第です。
自分の好みを除いて全メニュー完遂の企画をしよううとするのだから驚いてしまいます。
著者の「立ち食いそば」道ともいうべき求道的精神にも感動します。
NHK
シルクロード
草原に羊を追う遊牧民
砂漠にラクダと共に生きる人々。
オアシスの中で養蚕し、絹織物を作る人々。にぎわうバザール。
平和こそが何より尊く、人々は信仰の中で生きています。
シルクロードは、絹をはじめ様々な特産品の交易の歴史でもありました。
そして、それは軍事力による、国家、民族の伸張、興亡の歴史でもありました。
砂漠の中で捨てられた仏教遺跡。首をはねられた仏像。はぎとられた壁画。
砂漠の中でとぎれてしまう仏教。
戦争と平和をたずさえて宗教が伝播してくる歴史でもあります。
現在、シルクロードと言われている各地で、民族対立、宗教対立、政情不安で戦争状態にあることは、日々の報道でよく知るところです。
そう考えると、良く実現達成できた企画だと驚いてしまいます。
「幕末史」「昭和史」
半藤一利
 徳川幕府瓦解。明治維新。
新政府は、日本の独立を守るため、富国強兵を国策とし、日清・日露戦争で勝ち、
近代国家として体裁を整え、欧米列強と並び、やがて中国大陸に進出し、アジア諸地域を侵略し、太平洋戦争で敗北し、灰塵となってしまう。
 この六十年を日本史と捉え、これからどのように日本人は生きるべきか?
 多くの指針を与えてくれる本です。
 情動的な風潮に注意すること。
 強固明確な主義主張、政治信条よりも気分的なもの、その時の流行・風潮、その集団の雰囲気 に流されてしまうこと。
 過去を振り返って「こんなはずではなかった」「あの時こうなるとは思ってなかった」ということはありえること。
 また特定の集団が権力を握る危険性も指摘されてます。
 政策決定に合理性を欠き、サークル内の調和を重んじ、家父長的な人間関係のなかで
政治を進めようとすること。事大主義を排することはなかなか難儀なことと思わずにはいられない。
 この本は、卑下をせず、自惚れもせず、冷静に現代史に対応することの難しさを教えてくれました。
ベトナム戦記
開高健
 50年前、インドシナ半島であった戦争を現地に滞在して詳細にるポタージュした本。
強権的な大統領が暗殺される。
軍人たちは対立反目しており、繰り返されるクーデターで政権は変転する。
仏教徒、知識人学生たちの反政府運動。
 政府軍とベトコンとの戦闘は、やがて、米軍との全面的な軍事介入となり、北爆が開始される。
政府軍による空からの枯葉作戦。
対抗するベトコンは、地下トンネルを網の目のように掘り、縦横無尽の戦闘を展開する。
 両軍入り乱れての内応、転向があり、全土全て最前線、農村もサイゴンもどこもかしこも戦場。
開高先生は、戦争の中での市民、農民の生活をつぶさに観察する。
レイテ戦記
大岡昇平
 フィリッピン戦線に従軍し捕虜になった経験を持つ大岡先生が、
戦死した兵士の鎮魂のため、レイテ島で戦った日米両軍の戦闘の全貌を究明しようとした労作。
両軍の戦史、将軍や兵士たちの回想録、生き残り兵たちへの聞き取り取材など広範な取材を経て執筆。
日本軍の作戦をみれば、逐次的な兵員、軍備の投入は、東シナ海で潜水艦に輸送船団は撃沈、
フィリッピンに着けば空襲により揚陸がうまくいかず、日本兵は乏しい兵器、弾薬、食糧で米兵と戦い、
多くは山野をさまよい戦病死するか、玉砕して戦死。大岡先生は、日本兵の敢闘精神を讃えながらも日本軍の戦略の 拙劣を指弾し、
フィリッピン現代史を通曉し、甚大な損害をもたらされたフィリッピン国民への配慮も忘れない。
海底二万里
ジュール・ヴェルヌ
 闘争対立する地上の文明社会を嫌悪するネモ船長。
潜水艦ノーチラス号で世界の海を航海する。
多岐豊饒な海の世界。そこは闘争する世界ではなく、調和のある世界。
その中で静謐な生活をするネモ船長。
世界一周の航海の過程で披露される海洋生物学の知識は万華鏡のようにきらびやかで、
色んな海との出会いに、目をみはり、息をのみ、
読者の私たちも一緒に航海しているようにページを捲ります。
復活
トルストイ
 青年公爵ネフリュードフは、陪審員として出席した裁判で、
かつて弄んで捨てたカチューシャが殺人犯として裁かれる場面に出会う。
かつて清純な少女の面影はなく、ふてぶてしいまでのカチューシャの態度。
ネフリュードフは、放埓豪奢な上流社会の生活を省みて、カチューシャに許しを請う。
しかし頑ななカチューシャの態度。
ネフリュードフは、彼女の弁護活動の過程で虐げられた民衆の存在を知り、
彼らとともに生きようと決意し、シベリアに流刑されるカチューシャの後を追う。
新・平家物語
吉川英治著
 貴族社会から武家社会の移行期。
宮廷、貴族、武家、僧侶入り乱れて権力闘争の世。
平家の隆盛。源氏への粛清の追及。天皇、上皇をも凌ぐ平清盛の権勢。
やがて流浪する源氏の遺児たちの決起。呼応する東国の豪族たち。
壇ノ浦に平家を追い詰めて滅亡させる義経の活躍。
その義経も兄頼朝に反逆者として追われ、平泉に果てる。
老若男女、貴賤の区別なく、登場人物を活写し、人間の表裏 を人生の深淵を描き、
栄枯盛衰の世の中にどう生きればよいかを教えてくれます。
生きている兵隊
石川達三著

 日中戦争の最中、中国大陸に渡り転戦する新兵たちは、
戦争とどう折り合えばいいのか苦悩する。
やがて「殺さなければ殺される」という戦場の論理が徐々に身に付く。
略奪、暴行、殺戮、激しい戦闘のはてに南京入城。
著者が実際従軍し、ルポルタジュ文学として結実させた問題作。

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